会議の場で「部下が発言しない」。問いかけても沈黙が続き、結局は上司が話し、決め、会議が終わる。そんな場面が続くと「主体性が足りないのでは」「もっと考えて来てほしい」と感じるのも自然です。
ただ、部下が発言しない会議は、個人の性格や意欲だけでは説明できません。多くの場合、会議の設計や上司の反応、チームの心理的安全性(発言しても不利益が起きないという予測可能性)が、沈黙を合理的にしています。Googleが公開している研究整理でも、チームの有効性において心理的安全性が重要な要素として扱われています。
Google re:Work「ガイド: 効果的なチームとは何か」
https://rework.withgoogle.com/intl/jp/guides/understanding-team-effectiveness
本コラムでは、「会議で部下が発言しない」という現象を、上司側・部下側の課題に分けて構造化し、最後に解決策を会議運用の型として提示します。読み終えたときに、「次の会議で何を変えるか」の具体的で実行してみようというアイデアが決まっていることを目指します。
会議で部下が発言しない本当の理由
会議で部下が黙るのは、怠慢でも、能力不足でもなく、「この場で発言することが得にならない」と感じているケースが多いからです。発言が評価に直結する、否定や詰問が返ってくる、意見を出すほど仕事が増える。そうした経験が積み重なると、沈黙が安全な選択になります。
心理的安全性は、エイミー・C・エドモンドソンが1999年に示した概念で、チームの中で対人リスクを取っても大丈夫だという共有された信念、と整理されています。 ここで重要なのは、心理的安全性は「仲良し」ではなく、発言・質問・異論が罰されないという運用の結果として育つという点です。
Amy C. Edmondson (1999) “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams” (PDF)
https://web.mit.edu/curhan/www/docs/Articles/15341_Readings/Group_Performance/Edmondson%20Psychological%20safety.pdf
つまり、沈黙を変える最短ルートは、部下を叱咤することではなく、会議の場を「発言が起きる構造」に組み替えることです。ということで、まずは上司側の課題から見ていきましょう。
上司側の課題

ここでいう上司側の課題は、「上司が悪い」という責任追及ではありません。会議の設計権と、場の空気に最も影響する反応の権限を持っているのが上司である以上、構造を変える起点も上司になりやすい、という現実の話です。逆に言えば、上司が少し型を変えるだけで、部下の発言は驚くほど戻ってきます。
また、沈黙の原因は一つではありません。目的が曖昧、問いが広い、反応が評価的、力学が偏る、会議後に何も変わらない。これらが絡むほど、部下は「話さないほうが合理的」と判断します。以下の3つの課題は、現場で特に再現性が高い課題です。
上司の課題① 発言しようがない会議を作っている
沈黙が起きる会議の多くは、部下の問題以前に「発言しようがない」設計になっています。典型は、目的・ゴール・決め方が曖昧なまま集めるケースです。何を決めたいのか、何を揃えたいのかが不明確だと、部下は「とりあえず聞いておく」モードになり、意見を出す意味を見失います。
会議の要点は、意外とシンプルです。McKinseyは効果的な会議を、
- purpose(目的)
- preparation(準備)
- presentation(運営)
で整理しています。
McKinsey & Company (2023) “What is an effective meeting?”
https://www.mckinsey.com/featured-insights/mckinsey-explainers/what-is-an-effective-meeting
特に問いの範囲が広くて、あいまいになればなるほど沈黙は増えます。例えば「どう思う?」は万能に見えて、実は最も答えにくい問いです。
さらに、会議前に「前提」と「論点」を配るだけで、発言量は大きく変わります。1枚のメモで構いません。
- 背景(なぜ今この議題か)
- 制約(予算・納期・守るルール)
- 選択肢(今ある案)
- 今日決めたいこと(1文)
など先に共有しておくと、部下は考えた上で参加できるようになります。
例えば、次の3つの問いは、部下と場を動かす力をもつ問いです。
- 比較:「A案/B案なら、現実的なのはどちら?理由は1つ」
- 分解:「うまくいかないとしたら原因は何?上位3つ」
- 最小化:「今週できる最小の一歩は何?」
会議が長い・まとまらない問題も、根は同じです。準備がないと、会議中にゼロから考え始めてしまい、発言の質も量も落ちます。
詳しい型は、関連記事「会議が長い・まとまらないを防ぐファシリテーション技術」も参考になります。

上司の課題② 上司の反応が心理的安全性を壊している
上司は否定していないつもりでも、部下は「評価されている」と感じています。特に、発言直後に正解を言う、細部を詰める、結論だけ切り捨てる。こうした反応が続くと、部下は次から黙るのが合理的だと判断します。沈黙は、部下の弱さというより、場の学習結果に近いものです。
活発な会議運営ができている上司に共通するのは、反応しやすい状況を作り出しているということです。例えば「受け止め→要約→問い返し」。正誤を裁く前に、まず意味を整えます。加えて、短いフィードバックにはSBI(Situation-Behavior-Impact)のような構造化された伝え方も有効です。 こうした短いフィードバックの考え方は、関連記事「叱れない管理職が身につけるべき『伝え方』の技術」でも触れられています。
具体的には、こんな返し方です。
- 受け止め:「その視点は大事だね」
- 要約:「つまり◯◯のリスクが気になる、という理解で合ってる?」
- 問い返し:「そのリスクを下げる一手を、1つだけ挙げるなら?」
ポイントは、部下の発言を結論として扱わないことです。未熟かもしれないけどよい素材として扱い、上司は上手く理解してあげてしっかり編集して相手や会議の場に返す。これだけで「発言しても大丈夫」という空気をつくることができます。
加えて、発言を促したい場面ほど「答えの正しさ」より「検討の質」を評価対象にします。たとえば「結論が合っていたか」ではなく、「どんなリスクを見落とさなかったか」「どんな前提を確認したか」を拾う。こうした評価軸を上司が言語化すると、部下は「間違った発言をしたら評価が下がる」という恐怖から解放され、発言のハードルが下がり、より活発に発言が生まれるようになってくるはずです。
上司の課題③ 会議が力関係で支配されている
発言が出ない会議は、心理面だけでなく、構造面でも起きます。声が大きい人が話し、経験者が結論を決め、他は「聞くだけ」になる。こうなると、沈黙はさらに合理的になります。反対意見は摩擦や反発を生むだけで、結局採用されることもなく意味もない。それなら黙っていたほうが安全で会議も早く終わるし、余計な仕事や責任を負う心配もない……となるからです。
この状況は、ルールを導入することで突破できます。特に効くのは「話す前に書く」ことです。例えば冒頭の2分だけ全員が無言で意見や考えを書き出し、次にペア共有、最後に全体共有するような運用です。ほかにもラウンド制で、全員が「懸念点を1つだけ発言する」というルールです。この場合は一人一人の持ち時間を短くすると、完璧主義が下がり、とっさの面白い意見が出ることがあります。
また、発言=担当、という暗黙ルールがある組織では、沈黙は自己防衛になります。意見を出した人が担当者として責任や作業を担うのではなく担当は別に割り当てるたり、もし担当するなら裁量・期限・支援をセットにするなどの工夫も求められます。このような配慮がないと、会議は「言わない人がお得になるゲーム」になってしまいます。
部下側の課題

上司側の設計を直しても、部下側の課題が残ったままでは、活発な議論を望むことは難しいままです。ここでいう部下側の課題も、個人責任を問う話ではありません。発言はスキルであり、スキルは型と練習で伸びます。そこで部下が発言しないのは、しないのではなく、「できない/怖い/意味がない」と感じているだけであるという前提で整理していきます。
また、部下側の課題は、上司側の課題と表裏一体です。準備不足は情報の不足と結びつき、発言が報われない経験は会議後の運用と結びつく。だからこそ、部下側の課題は上司が支援できるポイントとして解釈するのが実務的です。
部下の課題① 発言の仕方を教わっていない
多くの部下は「考えていない」のではなく、「どう話せばいいか分からない」状態にいます。特に若手ほど、発言は「完璧な意見」であるべきだし、「自分(の意見)を否定されたり、怒られる可能性がある」と誤解しています。そうなると、より沈黙する傾向が強まります。
ではどのような対策があるのか?
おすすめは「結論→理由→提案」の型を使うことです。ちなみにこの型を使って、30秒で言えるサイズにまとめるとより良いです。もう一つは「事実→解釈→提案」の型で、これはより現場の報告に強い型になります。上司が会議の冒頭で「今日はこの型で話そう」と宣言し、実際にその型で話すだけでも部下は安心するはずです。
さらに効果が高いのは、上司が評価者ではなく編集者として機能することです。部下の意見が幼くても、言葉が足りなくても、上手く要点を拾って整え、「今の話はこういう意味だね」とまとめてあげる。そうすると部下も意見がまとまっていなくても安心して発言する気持ちになってくれるはずです。

部下の課題② 準備不足と情報不足が沈黙を生む
会議でいきなり意見を求めらて、即答できる人は多くありません。沈黙は、準備不足というより、前提情報が揃っていないことが原因だったりします。会議で初めて資料を読む、会議で初めて制約を知る。その状態で意見を求められても、困惑するのは当たりまえです。
この解決策は、重い宿題ではなくパッと思いつくレベルでよいから考えてくることです。例えば次のように、考える範囲を絞ります。
- 「詰まりポイントを3つだけ書いてきて」
- 「A案のメリットを1つ、B案のデメリットを1つ」
- 「顧客の反応(事実)を3つだけ」
さらに、役割を与えると発言は出やすくなります。「現場リスク担当」「顧客視点担当」「数字の前提担当」など、自分の役割が明確だと、その立場からものを考えるようになるので、意見が出やすくなります。
部下の課題③ 発言しても報われない経験
部下が黙る最大の理由は、「言っても変わらない」という過去の経験からの学習があるからです。過去に発言して、反映されない、放置される、もしくは仕事だけ増える。こうした経験があると、沈黙は合理的になります。これは意欲の問題ではなく、報酬設計の問題です。
大切なことは会議後に「決定/未決定」を分け、「誰が・いつまでに・何を・どのレベルで」実行するのかを明確にして、次回会議の冒頭で必ず結果に触れることです。この循環がない会議は、発言が投げっぱなしになりがちで無力感生み出してしまいます。
もう一点、上司が意識したいのは「公平感」です。発言した人だけが負担を背負い、黙っていた人には何も負担が発生しない構造がある限り、沈黙が合理的判断となります。担当をお願いする、役割と裁量をセットにする必要があります。もし担当しないなら、意見を出すだけでも評価される(たとえば議事メモへの追記や、会議後の短いコメントなど)ような仕掛けを用意してください。
ここで大事なのは、いきなり全部を変えようとしないことです。最初は「採用」「保留」「却下」と理由を短く伝えるだけでも構いません。発言がどう扱われたかが見えるだけでも、部下は「言っても無駄」という前提を手放し始めます。
解決策
ここまでの話を、現場で使える「会議運用の型」にまとめます。ポイントは、上司側の設計・反応・運用と、部下側のスキル・準備・動機を、同時に少しずつ動かすことです。いきなり完璧を求めると破綻します。課題のうちの2割が変われば、会議の雰囲気が8割変わることも十分にあり得ます。

発言が自然に生まれる会議をつくる5つの原則
1)目的・問い・決め方を冒頭で宣言する
- 共有なのか、相談なのか、決定なのか
- 今日は何を持ち帰れば成功か
- 決め方は合意か、責任者決裁か
2)問いを“答えやすい形”に変える
- 「どう思う?」を封印し、比較・分解・最小化に寄せる
- まずは事実→比較までで声を出させる(レベルを上げすぎない)
3)上司の反応をテンプレ化する
- 受け止め→要約→問い返し
- フィードバックはSBIなどの構造を使い、説教を短くする。
4)「書く→話す」を挟んで力学を中和する
- 2分メモ→ペア→全体、またはラウンド制
- 口の強さより、思考の中身が出る順番を作る
5)会議後に“変わった証拠”を残す
- 決定/未決定を分ける
- アクションは3点セット
- 次回冒頭で必ず結果を触れる
さらに「会議前」「会議中」「会議後」を意識して考えると、より大きな成果を生むことが容易になります。
会議前:目的/問い/前提メモ(1枚)を配る。3分宿題を出す。
会議で発言が出ない最大要因は「考える材料が揃っていない」ことです。そこで、会議前にA4一枚(またはチャット1通)で ①目的(何のため)②問い(今日は何を答える)③前提(数字・制約・背景) を渡します。さらに「3分宿題」として、たとえば「懸念点を1つだけ」「A案のメリット1つ」など“超軽い”準備を依頼すると、部下は会議中にゼロから考えずに済み、発言のハードルが下がります。
会議中:書く→話すを挟み、反応は受け止め→要約→問い返しで統一する。
口の強い人が場を支配したり、黙る人が増える会議は「話す順番」の問題でもあります。最初に1〜2分だけ全員が黙ってメモ(書く)→その後に発言(話す)にすると、思考が整理され、全員が“言う材料”を持った状態になります。
そして上司の反応は 受け止め(否定しない)→要約(意味を整える)→問い返し(次の一手に進める) に揃えると、部下は「言っても損しない」と感じやすくなります。
具体的には以下をご確認ください。
- 受け止め「その視点は大事」
- 要約「つまり◯◯が不安、という理解でOK?」
- 問い返し「じゃあ不安を下げる一手を1つ挙げるなら?」
会議後:決定/未決定とアクション3点セットを残し、次回冒頭で結果に触れる。
会議が言いっぱなしで何も決まらず終わる経験を重ねると、部下は「言っても変わらない」と学習して黙ります。そこで会議後は、議事録を立派に作る必要はなく、決定/未決定 を分けることだけでも意味合いが変わってきます。そしてアクションは 誰が・いつまでに・何を・どのレベルで… などまで明確にしてください。さらに次回冒頭で「前回の結果」を30秒でも触れると、発言が行動と結果につながる循環が生まれ、会議への参加意欲(=発言)が回復してくるはずです。
まとめ
部下が発言しない会議は、部下の性格ややる気の問題ではなく、会議の設計・上司の反応・会議後の運用が作り出す「合理的な沈黙」であることが多いです。だからこそ、叱咤よりも、構造を変えるほうが早い。
会議は「話す場」ではなく、「考えを揃え、決め、進める場」です。目的と問いを整え、反応を整え、決定と実行の循環を回す。すると会議で活発な発言や議論が生まれてくるはずです。

