部下へのフィードバックが苦手な管理職の改善法

「部下に言うべきことは分かっているのに、口に出すのがしんどい」

このように感じている特に若手の管理職は、想像以上に多くいるようです。この管理職のフィードバックの悩みは、能力不足というより構造の問題であることがほとんどです。

多くの場合、

  • 関係が壊れる不安(対人リスク)
  • どう言えば成果につながるか分からない不確かさ

の2つが絡み合っています。さらに「コーチングで引き出そう」と思うほど、基準が曖昧なまま質問だけが増え、会話が空回りすることもあります。本記事では、学術的に検証され、実務でも広く用いられている手法で、部下へのフィードバックの苦手意識を改善する道筋を示したいと思います。

大きな流れは以下の通りです。

  • 事実を扱うSBI/SBII
  • 対話を前に進めるGROW
  • コーチングが効かない場面を埋めるティーチング
  • 続けるための1on1運用

一つでも気になった、ピンっと来た、知らない単語があった方もぜひ読み進めてみてください。

目次

苦手意識の正体:なぜ言いづらいのか

フィードバックが苦手な背景には、対人リスクを回避しようとする自然な心理と、抽象的な言葉が人を傷つける構造があります。ここを理解すると、「怖いから避ける」から「設計して伝える」へ切り替えやすくなります。

関係悪化・反発への恐れ

多くの管理職がフィードバックを伝えることを怖いと感じる理由は、「相手が反発して関係が壊れるのではないか……」「チームの空気が悪くなったらどうしよう……」という創造から引き起こされています。心理的安全性が低いほど、この恐れは強まります。心理的安全性は「対人リスクを取っても安全だという、チームに共有された信念」と定義され、学習行動と関連することが示されています。
(出典:Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams.

さらに厄介なのが、上司からの指摘が抽象語で語られやすいという点にあります。「主体性がない」「責任感が弱い」「もっと当事者意識を」のような言葉は、受け手からすると“人格”への評価に聞こえがちです。すると自己防衛が起き、説明・沈黙・反発などで会話が止まります。

管理職側もそれを予測して言葉を濁し、結果的に伝えたいことは伝わらず、改善が見えず、次の行動も決まらない、ということが起きます。逆に言えば、より具体的に「いつ・どんな行動が・どう影響したか」に変換できれば、会話がしやすくなりその先の変化も起こしやすくなります。

動機づけを下げたくない…という誤解

自己決定理論では、人が自律的に動くための基本欲求として、自律性・有能感・関係性が挙げられます。 ここを誤解すると、「厳しい話は避け、本人の気づきに任せる=コーチングだけで何とかする」になりがちです。しかし、受け手の基準やスキルが未形成のまま問いだけを投げても、有能感はむしろ下がります。「何をどう直せばいいか分からない」という状態は、本人にとっては苦痛以外の何物でもありません。

また、フィードバックは万能ではありません。歴史的レビューやメタ分析では、平均的には効果がある一方で、一定割合はパフォーマンスを下げる(逆効果になる)ことも報告されています。過去に「言ったら関係が崩れた」「部下が萎縮してしまった」などの経験があると、管理職はフィードバックを危険な行為として避けがちになります。
(出典:Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996). The Effects of Feedback Interventions on Performance: A Historical Review, a Meta-Analysis, and a Preliminary Feedback Intervention Theory.

だからこそ、お互いの関係性に配慮しつつも、行動変容につながる型と順序が必要になります。

伝える型で迷いを消す

フィードバックへの苦手意識の克服最短ルートは、感情や解釈を一旦脇に置き、事実から会話を組み立てることです。具体的には、SBIは抽象語を観察可能な行動へ変換します。さらにSBIIに拡張すると意図の確認が入り、対立が起きにくくなります。まずはこの2つを定型文として扱えるようになるだけで、心理的な負荷を大きく軽減できるようになります。
(出典:Center for Creative Leadership (CCL)|SBIモデル解説SBII解説

SBIで事実を伝える(状況・行動・影響)

SBIはSituation(状況)・Behavior(行動)・Impact(影響)の順に話すフレームで、CCL(Center for Creative Leadership)が普及させています。

ポイントは「評価」ではなく「観察」を使うことにあります。この型を使えば、会話を通じてフィードバックが修正可能な行動につなげやすくなります。特にB(行動)を具体的に想像できるレベルで扱うことで、その効果は大きくなっていきます(例えば、言葉づかい、作業手順、提出物、期限など)。

SBIのテンプレ

  • S(状況):「いつ・どこで・何の場面か」
  • B(行動):「実際に見聞きした行動(具体)」
  • I(影響):「その結果、仕事・顧客・チームに何が起きたか」

例:

  • S「昨日の定例MTGでA案件の進捗共有のとき」
  • B「結論だけを先に伝えて、根拠の数字が出ていませんでした」
  • I「意思決定が保留になり、次の担当の作業が止まりました」

Iを気持ちだけで終わらせずに、遅延・品質・顧客体験・コストなどの具体的な事柄まで落とすと、フィードバックがより効果的な仕事の会話になります。反対に「あなたのせいで困った」のような抽象的かつ個人の感情レベルだと、人格に対する評価だと思われてしまうので注意が必要です。

SBIIで意図確認し、改善を1つに絞る

SBIの後にI(Intent/Inquiry:意図の確認)を足したSBIIは、「意図と影響のギャップ」を扱う拡張版としてCCLが紹介しています。

  • 「このとき、どういう意図がありました?」
  • 「意図は理解しました。影響としてはこう出ています」

このような会話であれば、相手の部下は「責められている/詰められている」ではなく、「すり合わせをしている」と感じやすくなります。

その次にやることは、改善の合意を1つに絞ることです。やるべきことが複数あると、相手は混乱したり負担に感じやすくなり行動が鈍ります。同時に上司の方は「あれも、これも、」と説教モードに陥りやすくなり、結果として難易度も上がり、行動スピードは落ち、再現性も失われていきます。

そして最後は「確認作業」を提案しましょう。例えば、「次回は、提案内容の根拠を1枚の紙にまとめてきてください。そして会議前に5分、一緒に確認しましょう」という具合です。

上司との確認作業があることで、部下の不安は軽減され、行動しやすくなります。

コーチングを組み合わせる

SBI/SBIIが「事実を扱う土台」なら、コーチングは「本人の納得と自走」を作る技術です。そしてここで紹介する代表的な枠組みが「GROWモデル」です。

GROWモデルはGoal(目標)・Reality(現実)・Options(選択肢)・Will/Way forward(意思・前進)の4段階で対話を進めるモデルで、職場のパフォーマンス・コーチングで広く使われています。ここでのコーチングは「優しく聞いて考えさせるスキル」ではなく「合意形成の手順」として使います。
(出典:Whitmore, J. (1992). Coaching for Performance.

G・R:理想と現状をそろえる質問

組織文脈のコーチングは、パフォーマンスや目標志向的な自己調整などに正の効果があることがメタ分析で示されています。

G(Goal):「理想の状態」を行動で言語化させる

具体的な質問は以下の通りです。

  • 「次の定例で“良い共有”って、どんな状態?」
  • 「聞き手が判断できるために、何が揃っている必要がある?」

ここで本人の口から理想の状態を言わせると、上司の期待を押しつけるのではなく、相手の自律性が守られやすいのが利点です。

R(Reality):現状を確認する

SBIを参照し、事実に戻すと、話が逸れません。

  • 「今のやり方だと、どこが足りていない?」
  • 「昨日の共有で、根拠の出し方はどうだった?」

GoalとRealityの差が見えた瞬間に、会話の内容が具体的な計画へ切り替わります。

O・W:選択肢→次の一歩→期限→確認

O(Options):いきなり正解を教える前に選択肢を複数出す

具体的には以下のような内容になります。

  • 「根拠を出す方法として、どんなやり方がありそう?」
  • 「資料・口頭・チャット、どれが現実的?」

選択肢が出ないときだけ、上司は一つの候補としていくつかの具体例を挙げてください(例:テンプレ配布、見本資料の共有、チェック項目の提示など)。その際、部下の答えを奪うのではなく、部下の考えを引き出すためという意識を忘れないようにしてください。

W(Will/Way forward):行動を確定する

以下が具体的な事例になります。

  • 「次回までに、何を・いつまでに・どの形で準備する?」
  • 「上手くいったかどうか、何で判断する?」

この「期限」と「評価方法」が決まると、目標設定理論が示す具体的で挑戦的な目標が成果を高めやすいという原則に沿うことができます。

そして最後に「次回は会議の前に5分だけ、根拠となる資料を一緒に確認しよう」のような形で上司側の支援を1つ決めます。支援が明確だと、部下は安心感を感じやすくなり、結果として次の行動に移りやすくなります。

コーチングが効かない場面はティーチングで補う

「質問をすれば、部下も答えを持っていて答えてくれる」とは限りません。知識や経験やスキル不足、基準の未共有など、時と場合によってはコーチングよりティーチング(期待や手本の提示、考え方や答えを教えるなど)が必要なこともあります。ここを混同すると、部下は答えに困り「怒られた/詰められた」と感じてしまい、管理職側は「コーチングは使えない」と誤解してしまいます。

期待値の提示/手本・練習/緊急時の指示

基準が未共有なら、基準を言語化するのが先です。

「この役割では、週次で“数字の根拠が追える状態”が基準です」

「良い/悪い」ではなく「何が揃っていれば合格か」が分からなければ、部下も迷いながら行動することになり、基準に満たない成果物をつくったり、必要以上に時間と労力をかける非効率な動きをしてしまうことになります。

スキル不足が明確なら、まずは手本→練習→短いフィードバックを行いましょう。

具体的には、進捗共有の型を一度見せ、部下に同じ型でやらせ、直後にSBIで一言だけ修正します。1on1面談で長々と指摘するよりも、型を示したら現場で小さく行動しながら学習する方が効果的かつ効率的であることがほとんどです。

緊急性が高い場面では、具体的な指示を与えて、後で一緒に振り返りを行うようにします。

「今日中にこれを直そう。やり方はこの順で」

同じことを起こさないための対策は、緊急事態を収拾した後で検討してください。目の前の事態に対応するための指示と、今後の対策を検討する対話は、内容もタイミングも切り分けて適切に伝えるようにしてください。

すぐ使えるフィードバック台本

ここからは、ティーチング+SBI/SBII+GROWを一続きにした「フィードバックの台本」であり、言い換えると型になります。最初はメモをして手元の紙に書いておくと良いかもしれません。何度か繰り返すうちに苦手意識も薄れてくるはずです。

報連相が遅い:期待→SBI→GROW→合意

【期待(ティーチング)】

「このチームでは、遅れそうなときは“遅れる前に”共有するのが基準です。早めに共有できれば、手が打てます」

【SBI】

「(S)昨日の15時の時点で追加要望が出ていた場面で、(B)共有がなく、(I)今朝の方針決定ができず返答が遅れました」

【SBII(意図確認)】

「共有しなかったのは、どういう意図でした?」
「意図は理解しました。影響としては遅れが出ています」

【GROW(W)】

「遅れそうなときは、何を合図に、どの手段で共有する?」
「次の1週間、“遅れる可能性が10%でも出たらチャット”で試して、来週の1on1で結果を確認しよう」
(補足:試してみて難しければ、合図や手段を一緒に調整する)

数字・根拠が弱い:手本提示→練習→確認

内省だけでは、数字や行動の改善は難しいのが現実です。部下には適切な型を渡し、練習で定着させるのが近道です。

【期待(ティーチング)】

「進捗共有では、①結論、②根拠(数字・事実)、③次の打ち手、の3点が基準です」

【手本→練習】

「私の例を1回見せます。次に、今の案件をその3点で1分で話してみてください」

【SBIで短く修正】

「(S)今の共有で、(B)根拠が感覚の表現になっていて、(I)判断できませんでした。根拠は数字か事実で言い切ろう」

【GROWで合意】

「根拠を数字で出すには、どのデータを毎日メモすればいい?」
「次回までに“根拠の数字を1行”で記録。定例前に5分、一緒に確認しよう」
(補足:最初は完璧を求めず、小さな行動から始めることを認める)

仕組み化:1on1で回し続ける運用

フィードバックをその場その場のリアクション的に行っても定着しません。「週1回、15分、1on1をする」のようにルール化することで仕組みになっていきます。開催頻度やタイミングも事前合意しておくことで、心理的安全性も確保されます。

週1・15分の最小フォーマットとメモ術

最小フォーマットは次の3点です。

  • 承認(SBIで良かった行動を1つ)
  • 改善(SBI/SBIIでズレを1つ)
  • 次の一歩(GROWのWでいつ何をするかを1つ)

メモは議事録ではなく、次回の確認のために書き出します。具体的には、

  • 合意(行動1つ)
  • 期限(いつまで)
  • 判断(何で確認)
  • 上司支援(何をする)

この4行で十分です。

もし余裕があれば、最後に具体的な困りごとを1つだけ聞き、支援の見落としを防ぎましょう。

状況に合わせて支援を切り替える

同じ部下でも、テーマによって「コーチングが効く/効かない」は変わります。鍵は「能力×意欲」の見立てです。管理職としては、指示・コーチング・支援・委任を、部下の発達段階に合わせて使い分けられるようになると、互いに良い関係を維持しつつ、物事も改善していきます。

使い分けのイメージは以下の通りです。

  • 能力が低い:ティーチング(期待提示・手本・練習)
  • 能力はあるが迷いがある:コーチング(GROWで自己決定)
  • 能力も意欲も高い:委任(目標と境界だけ握る)

切り替えのコツは、「人」ではなく「テーマ」で見ることです。例えば「数字は弱いが、顧客対応は得意」という部下もたくさんいます。この場合、数字や顧客対応などのテーマごとに関わり具合を調整すると、部下もフィードバックを受け取りやすくなり、行動や結果も改善しやすくなります。

レベル別の取り組み

ここでは部下の苦手克服という観点から、レベル別の取り組みを考えていきます。相手に合わせた対応ができれば、成果も出やすくなり、その結果として上司側の苦手意識も薄くなっていくはずです。

基本的に、いきなり難しいことや複数のことに取り組むと失敗しやすくなります。取り組みやすい1つのことから始めて、成功体験を重ねることがポイントです。その過程で徐々に複雑なことや数多くのことにも前向きに取り組む姿勢や能力も身に付いていくはずです。ここでは1週間単位で実践できる練習手順を示します。

【レベル1:承認SBIだけ】

毎日1回、良かった行動をSBIで言語化して伝えるようにします。その際、「良かったよ」だけで終わらず、何が良かったのかを具体的な行動とともに伝えるのがポイントです。

【レベル2:軽い改善テーマまで】

次はSBIで終わらず、合意→次回確認までをセットで伝えるようにします。その時のポイントは「改善は必ず1つ」に絞ることです。

【レベル3:難しいテーマまで】

難テーマを取り扱う時は「期待→事実→対話→合意→確認」を崩さないことが重要になります。抽象的な内容でも行動基準(例:締切前の共有、事実ベースの報告、責任範囲の言語化など)を明確にすることで、自分で考えながら効果的で効率的に取り組めるようになります。

まとめ

苦手克服は、気合いではなく設計(型・仕組み化)で解決していくべき内容です。

SBIで抽象語を行動に落とし、SBIIで意図を確認して対立を避ける。そしてGROWで納得と自走を作る。ただし、基準未共有・スキル不足・緊急時はコーチングではなくティーチングが先。最後に1on1で合意と確認を取り付けて、その型を仕組みとして回し続ける

これが苦手意識を克服するだけでなく成果も創出するための、最短で再現性の高いルートです。とはいえ、いきなりすべてを完璧にやろうとしないでください。

お伝えしている通り、まずやることは1つ、「良かった行動をSBIで1回言う」ことです。小さな一歩かもしれませんが、苦手意識の克服という観点から考えると、非常に大きな一歩となるはずです。

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