部下がなかなか成果を出せないとき、管理職として苦しくなるのは自然なことです。特に、自分自身はプレイヤーとして結果を出してきた人ほど、「自分がやってきた通りに伝えているのに、なぜうまくいかないのだろう」と悩みやすくなります。
厳しく言えば動くわけでもない。優しく接すればよいわけでもない。任せると不安が増え、手を出しすぎると育たない。その板挟みの中で、特に若手の管理職は少しずつ余裕を失っていきます。
ただ、ここで大切なのは、成果が出ない原因をすぐに本人の能力不足ややる気の問題にしないことです。実際には、目標の置き方、期待値の共有、日々のフィードバック、相談しやすさ、任せ方、業務量の偏りなど、管理職の関わり方や仕事の設計が結果に大きく影響していることも少なくありません。
目標設定研究では、具体的で少し難しい目標の方が曖昧な指示より成果につながりやすいことが整理されており、また厚生労働省の調査でも、人材育成に課題がある事業所は79.9%にのぼっています。つまり、部下の成果不振は個人の資質だけでなく、育成の仕組みや関わり方の問題としても捉える必要があります。
この記事では、部下が成果を出せないときに管理職が最初に整理したいこと、主な原因、見直したい指導法、成長を促すマネジメントの考え方、階層別の向き合い方までを順番に整理します。感情で反応するのではなく、構造で捉え直すことから始めてみましょう。
部下が成果を出せないとき、管理職が最初に整理したいこと
部下の成果不振に直面すると、どうしても「どう注意するか」「どう指導するか」に意識が向きます。ただ、本当に必要なのは、その前に状況を冷静に整理し、打ち手を見誤らないことです。この章では、指導に入る前に押さえておきたい基本の視点を確認します。

成果が出ない原因を、本人の能力だけで決めつけない
部下が成果を出せないとき、もっとも起きやすいのは「本人に力がない」「やる気が足りない」と早く結論づけてしまうことです。もちろん、知識や経験が足りず、まだ十分に成果を出せる段階にないことはあります。ですが、そこだけを見てしまうと、管理職が変えられる大事な要素を見落としてしまいます。
たとえば、本人は頑張っているのに、何をもって成果とするのかが曖昧で、力の入れどころがずれていることがあります。あるいは、途中で相談したいことがあっても、上司が忙しそうで声をかけにくい。確認のタイミングがないまま進めてしまい、最後の段階で大きな修正が必要になる。こうした状態では、能力以前に仕事の進め方が噛み合っていません。目標設定に関する古典的研究でも、あいまいな「ベストを尽くす」より、具体的で明確な目標の方が高い成果につながりやすいと整理されています。
管理職としてまず持ちたいのは、「この部下はダメだ」という見方ではなく、「いま何がズレているのか」を見る姿勢です。本人の課題なのか、仕事の設計の問題なのか、上司との関係性の問題なのか。その見立てが変わるだけで、指導の質は大きく変わってきます。
参考:
Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation: A 35-Year Odyssey
管理職の悩みは「どう指導すればよいか分からない」ことにある
部下が成果を出せないとき、管理職が苦しいのは、数字が未達だからだけではありません。本当に苦しいのは、「声をかけているのに変わらない」「何をどこまで言えばいいのか分からない」という手応えのなさです。特に、自分がプレイヤーとして感覚的に成果を出してきた人ほど、そのやり方を伝えることの難しさにぶつかります。
自分にとって当たり前の判断が、部下には当たり前ではない。自分は空気で読めたことを、部下は言葉にしてもらわないと分からない。そのギャップに気づかないまま「なんで分からないの?」という反応をしてしまうと、部下は萎縮し、上司はますますいら立ちます。フィードバック研究では、フィードバック介入は平均的には有効でも、かなりの割合で逆効果になりうることが示されており、伝え方を誤ると成果を下げる可能性もあります。
つまり、若手管理職の悩みは、部下の問題だけではありません。役割が変わったことで、自分自身が「成果を出す人」から「成果を出せる状態をつくる人」へ変わる必要があるのです。この切り替えができていないと、指導が感覚頼みになりやすく、再現性のある育成につながりません。
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まずは原因を「業務」「関係性」「環境」に分けて考える
部下の成果不振を整理するときは、原因を一つに決め打ちしないことが大切です。管理職としては、まず問題を「業務」「関係性」「環境」の三つに分けて見ると、打ち手が考えやすくなります。
業務の問題とは、目標が曖昧、期待される役割が不明確、必要な知識や経験が足りないといったものです。関係性の問題とは、相談しづらい、上司の評価が怖い、言っていることが毎回変わる、期待が読み取りにくいといったものです。環境の問題とは、業務量が多すぎる、優先順位がぐちゃぐちゃ、兼務が多く集中できない、確認の時間が取れないといった状態です。
このように切り分けると、「本人の努力不足」で終わらせずに済みますし、何を変えればよいかも見えやすくなります。業務の問題なら目標設定や役割の共有を見直す。関係性の問題なら1on1や日々の対話を見直す。環境の問題なら仕事の量や順番を調整する。原因を分けて考えるだけで、指導はずっと具体的になります。心理的安全性の研究では、リーダーが支援的かつ非防衛的に振る舞うことで、メンバーは質問やミス共有のような対人的リスクを取りやすくなると示されています。
参考:
- Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams
- Martin, R. et al. (2016). Leader-Member Exchange (LMX) and Performance: A Meta-Analytic Review
部下が成果を出せない主な原因とは
原因を整理するときは、精神論ではなく、成果を阻害しやすい要因を一つずつ見ていくことが大切です。この章では、若手管理職が特に見落としやすい原因を整理します。ここがはっきりすると、部下への向き合い方がかなり変わってきます。
目標や期待される役割があいまいになっている
部下が成果を出せない原因として非常に多いのが、「何をどこまでやればよいのか」が曖昧な状態です。本人は頑張っているつもりでも、上司が求める方向とずれていれば、努力は成果につながりません。
たとえば、「しっかり進めて」「主体的に動いて」と言われても、それだけでは何を優先すればいいのか分かりません。営業なら件数なのか、提案の質なのか、案件の進捗なのか。事務ならスピードなのか、正確性なのか、改善提案なのか。上司の頭の中には基準があっても、それが言語化されていなければ、部下は手探りで進むしかありません。
若手管理職ほど、「このくらいは言わなくても分かるはず」と思いやすいものです。ですが、言わなくても分かるという前提がズレの出発点になりやすいのです。成果が出ないときは、まず目標と期待値が具体化されているかを見直してみましょう。目標設定研究では、目標の具体性と難易度の明確さが成果と結びつきやすいことが繰り返し確認されています。
参考:
Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation: A 35-Year Odyssey
必要な知識・経験・スキルが不足している
成果が出ない原因は、単純に「まだできるだけの材料が足りていない」こともあります。特に新人や異動直後の部下は、仕事の全体像、判断の基準、優先順位のつけ方をまだ十分につかめていません。
ここで管理職が気をつけたいのは、自分の経験値を基準にしないことです。自分には当たり前に見えることも、部下にとっては初めての判断かもしれません。どこで確認を入れるべきか、どの情報を先に見るべきか、相手の反応をどう読むのか。こうした細かな勘どころは、経験を通して身につくものです。
にもかかわらず、「一度教えたから大丈夫」「このくらいできるだろう」と見なしてしまうと、部下は分からないまま進むしかなくなります。成果が出ないときは、やる気を疑う前に、「この人は何がまだ分かっていないのか」「どの経験がまだ足りていないのか」を見てみることが大切です。厚生労働省の令和6年度調査では、計画的OJTを実施した事業所は正社員全体では61.1%で、人材育成に何らかの問題があるとする事業所は79.9%でした。育成不足は個人の怠慢より、職場の構造として起きやすい問題だといえます。
参考:
厚生労働省「令和6年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」
指導やフィードバックが抽象的で、改善行動につながっていない
管理職が部下に声をかけているのに成果が変わらない場合、指導やフィードバックが抽象的すぎることがあります。「もっと考えて」「主体性を持って」「丁寧にやって」と言われても、部下は次に何を変えればよいかが分かりません。
改善につながる指導は、人格や姿勢を論じることではなく、行動と事実に焦点を当てることです。「報告が遅い」ではなく「途中で詰まった時点で共有があると、修正が早くなる」。あるいは「提案が弱い」ではなく「相手が判断しやすいように、最初に結論を出した方が伝わりやすい」。このように具体的に返すことで、部下は初めて行動を変えられます。
抽象的な指導は、上司から見ると“ちゃんと言った”つもりでも、受け手からすると“何をすればよいか分からない”状態になりやすいのです。成果が出ないときほど、言葉を少し細かくしてあげることが必要です。フィードバックのメタ分析でも、課題そのものより自尊心に注意が向くと、介入が逆効果になる場合があると示されています。
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相談しづらい雰囲気があり、問題が表に出ていない
部下が成果を出せない背景には、実は困っているのに、それを早い段階で言い出せていないことがあります。本来なら、小さなつまずきの時点で相談できれば立て直せたのに、言いにくいまま進めてしまい、最後に大きな問題として表面化するのです。
管理職が忙しすぎる、少し聞くだけで不機嫌そうに見える、質問すると評価が下がる気がする。こうした空気があると、部下は「自分で何とかしよう」と抱え込みやすくなります。ところが、経験が浅い部下ほど、一人で抱え込むとズレが大きくなりやすいものです。
若手管理職は、厳しくしないと甘く見られるのではないかと不安になりがちです。ただ、必要なのは強さの演出ではなく、困りごとを早く出せる関係です。部下が相談しない背景は「やる気がない」より、心理的不安や職場環境の要因として整理されています。
相談しやすさは甘やかしではありません。むしろ、成果を早く立て直すための重要な土台です。リーダーが支援的・コーチング志向であるほど、チームは安全な環境だと解釈しやすいとEdmondsonは述べています。
参考:
Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams
業務量や優先順位が整理されず、力を発揮しにくくなっている
本人は手を動かしているのに成果につながらない場合、業務量や優先順位の問題が隠れていることがあります。やることが多すぎる、急ぎの案件に振り回される、何を先に終えるべきか分からない。この状態では、能力があっても成果は安定しません。
特にプレイングマネージャーの職場では、上司も余裕がなく、仕事の棚卸しや優先順位の整理を一緒にする時間が不足しがちです。その結果、部下は「忙しいのに成果が出ない」という苦しい状態に陥ります。これは努力不足というより、力の配分がうまくできていない状態です。
こうしたときは、指導より前に、仕事の見える化が必要です。何を止めるのか、何を先にやるのか、どこで確認を入れるのかを一緒に整理するだけでも、成果の出方は大きく変わります。部下の頑張りを増やすより、頑張りが成果につながる設計に変える方が先なことも多いのです。会議設計でも「会議でゼロから考え始める」状態が非効率を生み、事前の目的・問い・前提共有が重要だと指摘されています。これは日常業務の優先順位づけにも通じる発想です。
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部下が成果を出せないときに見直したい管理職の指導法
部下の成果を変えたいとき、管理職はつい「何を言うか」に意識が向きます。しかし本当に大切なのは、部下が動ける形で伝えられているかどうかです。この章では、成果改善につながりやすい指導法の基本を整理します。

感情的に叱るのではなく、事実ベースで伝える
成果が出ない状態が続くと、管理職にも余裕がなくなり、つい感情が先に出てしまうことがあります。しかし、感情の強さは改善の強さと同じではありません。むしろ部下は、内容よりも「責められた」という感覚を強く受け取り、防衛的になりやすくなります。
改善につながるのは、「最近だらけている」ではなく、「今週の報告は締切後が二回続いた」「提案書は結論が後ろにあり、相手が判断しにくかった」といった、事実と行動に焦点を当てた伝え方です。何が起きたのか、どんな影響があったのか、次にどう変えるのか。この順番で伝えると、部下は修正しやすくなります。
感情を抑え込むことより、伝える材料を整えることが大切です。事実を整理して話せるだけで、指導の伝わり方はかなり変わります。過去の記事でも、ネガティブなフィードバックを避けたくなる心理は自然なものだが、伝え方の技術を身につけることが重要だとお伝えした通りです。
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できていない点だけでなく、改善の方向まで示す
部下が成果を出せないとき、できていない点を指摘するだけで終わると、本人は「何が悪いか」は分かっても、「どう直せばよいか」が分からないままです。管理職に必要なのは、正解を全部与えることではなく、改善の方向を示すことです。
たとえば、「報連相が遅い」で終わるのではなく、「この案件は不安が出た時点で共有してほしい」「初回提案の二日前に見せてほしい」と具体化する。あるいは、「資料が弱い」ではなく、「この相手には最初に結論とメリットを置くと伝わりやすい」と方向を示す。こうした一言があるだけで、部下は動きやすくなります。
管理職がすべきなのは、ただ注意することではなく、部下が前に進める足場をつくることです。その視点があると、指導はぐっと育成に近づきます。目標設定研究の知見からも、何を目指すかが具体的に分かるほど、行動は安定しやすくなります。
参考:
Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a Practically Useful Theory of Goal Setting and Task Motivation: A 35-Year Odyssey
一方的に教えるだけでなく、考えさせる対話を増やす
成果が出ない部下を見ると、管理職はつい「正解を早く教えた方がいい」と思いがちです。短期的にはそれで進むこともありますが、それだけが続くと、部下は自分で考えなくなり、上司がいないと動けない状態になりやすくなります。
そこで大切なのが、問いかけを使った対話です。「あなたはどう見ている?」「一番詰まっているのはどこ?」「次に変えるなら何からやる?」といった問いを投げることで、部下の中にある考える力を引き出しやすくなります。もちろん、経験が浅い部下には教える場面も必要です。ただ、いつも上司が答えを出していると、育成は進みません。
教えることと考えさせることのバランスを取ることが、管理職の重要な役割です。すぐ答えを渡すより、考える土台を一緒につくる方が、長い目で見ると成果につながります。職場コーチングのメタ分析でも、コーチングは個人・組織の成果に対して全体としてプラスの効果を持つと報告されています。
参考:
Cannon-Bowers, J. A. et al. (2023). Workplace coaching: a meta-analysis and recommendations for advancing the science of coaching
短期の詰問ではなく、継続的な1on1で変化を支える
部下の成果を変えたいときほど、一度の面談で全部変えようとしないことが大切です。単発で厳しく言うより、短くても継続的に話す場を持った方が、変化は起きやすくなります。
一度の面談で全部伝えようとすると、内容は重くなり、部下は受け身になります。反対に、短くても定期的に話せれば、小さなズレを小さいうちに修正できます。「最近どこで詰まっているか」「優先順位は整理できているか」「何の支援が必要か」といったことを継続的に確認するだけで、問題は大きくなる前に扱いやすくなります。
忙しい管理職ほど、面談を後回しにしがちです。ですが、その結果として問題が大きくなり、もっと多くの時間を失うことも少なくありません。1on1は追加業務ではなく、成果不振を未然に防ぐための投資として捉えてみましょう。心理的安全性や上司部下関係の質は、一度の面談で生まれるものではなく、継続的な対話で形成されるという理解が重要です。
参考:
Martin, R. et al. (2016). Leader-Member Exchange (LMX) and Performance: A Meta-Analytic Review
部下の成長を促すために、管理職が改善したいマネジメント
部下が成果を出せないとき、管理職はどうしても「どう指導するか」に意識が向きがちです。もちろん指導の仕方は重要ですが、それ以上に影響が大きいのが、日々のマネジメントそのものです。指導は点の関わりですが、マネジメントは線の関わりです。単発で何かを言うよりも、日常の目標設定、確認の仕方、相談のしやすさ、任せ方の設計のほうが、部下の成果には長く深く影響します。
若手管理職ほど、「いいことを言わなければならない」「適切な指導をしなければならない」と考えがちですが、実際に部下の成長を左右するのは、名言のような一言ではありません。むしろ、普段どんな基準で仕事を見ているか、どのタイミングで声をかけるか、困ったときに話しかけやすいか、どこまで任せてどこで支えるかといった、地味だけれど継続的な関わりの積み重ねです。ここが整うと、部下は少しずつ動きやすくなり、成果も安定しやすくなります。
具体的で達成基準のわかる目標設定に変える
部下の成長を促すうえで、最初に見直したいのが目標設定です。成果が出ない部下に対して、「もっと頑張ろう」「主体的に動こう」と伝えても、現実にはあまり行動は変わりません。なぜなら、その言葉では何をどう変えればよいのかが分からないからです。
管理職に必要なのは、部下が自分の仕事を判断できる材料を渡すことです。たとえば、「今月はもっと提案件数を増やしてほしい」ではなく、「今月は週に3件、初回提案まで持っていくことを目標にしよう」とした方が、部下は何を意識すればよいかが分かります。また、「丁寧にやってほしい」ではなく、「提出前に誤字脱字と結論の位置だけは必ず見直してほしい」と伝えた方が、行動に落とし込みやすくなります。
ここで大事なのは、細かく指示しすぎることではありません。判断軸を見える形にすることです。部下が成果を出せないときは、能力が低いというより、着地点が見えていないことがあります。目標が具体的になると、部下の動きは安定し、管理職もどこを支援すべきかが見えやすくなります。研究でも、目標が明確であるほど、努力の方向づけと持続が起きやすいことが示されています。
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任せる範囲と確認するポイントを明確にする
部下の成長を促したい管理職ほど、「任せること」の大切さを意識します。これは間違っていません。ただし、ここで多くの若手管理職がつまずくのは、任せることと放置することを混同してしまう点です。任せたつもりが、部下からすると「見てもらえていない」「何が正解か分からないまま進めている」という状態になっていることは少なくありません。
本当に効果的な任せ方とは、丸投げではなく、支援設計のある委任です。つまり、何を任せるのか、どこまで自分で判断してよいのか、どのタイミングで確認を入れるのかを、最初に共有しておくことです。たとえば、「この案件は最初のたたき台までは任せるけれど、提案前に一度見せてほしい」と伝えておくだけで、部下の安心感は大きく変わります。
特に成果が出ていない部下ほど、仕事を任せられること自体よりも、「任せられたあと、どこで支えてもらえるか」が重要です。全部を細かく管理すると主体性が落ちますが、何も見ないと不安が増します。その中間を設計するのが管理職の役割です。部下を育てたいなら、任せることより前に、任せ方を整える必要があります。上司部下関係の質が高いほど、タスク成果が高まりやすいというメタ分析結果も、この「支えながら任せる」考え方を裏づけています。
参考:
Martin, R. et al. (2016). Leader-Member Exchange (LMX) and Performance: A Meta-Analytic Review
失敗や相談を言いやすい関係性をつくる
部下の成長において、見落とされがちなのが「相談しやすさ」です。仕事ができる部下ほど一人で進められるように見えますが、実際には成長していく人ほど、早い段階で相談し、ズレを修正しながら進めています。反対に、成果が伸び悩む部下は、小さな不安を抱えたまま時間を使い、問題が大きくなってからようやく表に出すことが少なくありません。
この違いを生むのは、本人の性格だけではありません。上司との関係性です。質問すると嫌な顔をされる、忙しそうで声をかけづらい、相談すると能力が低いと思われそう。こうした空気があると、部下は相談を先送りにします。結果として、小さなつまずきが大きな未達につながっていきます。
若手管理職は、「厳しくしないと甘く見られるのでは」と不安になりやすいものです。しかし、必要なのは威圧感ではなく、早く話せる空気です。「今の段階で聞いてくれて助かった」「早めに共有してくれてよかった」と伝えるだけでも、部下の相談行動は変わっていきます。成長を促すマネジメントとは、答えを与えることだけではなく、困りごとを早く表に出せる関係をつくることでもあります。心理的安全性研究でも、権威的・懲罰的なリーダー行動は学習行動を妨げると指摘されています。
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成果だけでなく、行動やプロセスも見て支援する
管理職は結果責任を負う立場ですから、成果を見ること自体は当然です。ただ、成果だけに注目しすぎると、部下は「うまくいったか、失敗したか」だけで評価されている感覚を持ちやすくなります。そうなると、失敗を避けることが優先され、挑戦や工夫が生まれにくくなります。
ここで意識したいのは、結果だけでなく、そこに至る行動やプロセスも見ることです。たとえば、提案は通らなかったとしても、事前準備が以前より丁寧になっている、報告のタイミングが早くなっている、相手の反応を踏まえた修正ができている。こうした変化に気づいて言葉にして返せると、部下は「見てもらえている」と感じやすくなります。
もちろん、プロセスだけ褒めて成果を問わないのでは意味がありません。大切なのは、結果を求めながら、その結果につながる行動を育てることです。短期の数字だけを追うと、部下はその場しのぎの動きになりやすくなります。反対に、行動の質まで見て支援できる管理職のもとでは、部下は少しずつ再現性のある力を身につけていきます。コーチング研究でも、自己理解や行動変容を促す関わりは成果向上と結びついています。
参考:
Cannon-Bowers, J. A. et al. (2023). Workplace coaching: a meta-analysis and recommendations for advancing the science of coaching
新人・若手・中堅で変わる、成果が出ない部下への向き合い方
同じ「成果が出ない」という状態でも、その背景は相手の段階によって大きく変わります。新人に起きていることと、中堅に起きていることはまったく別物である場合も少なくありません。にもかかわらず、全員に同じ指導をしてしまうと、的外れな関わりになりやすく、部下にも管理職にも無駄な消耗が生まれます。
ここで大切なのは、部下を年齢や性格で雑に分けることではなく、いまどの段階でつまずいているのかを見ることです。まだ土台をつくる段階なのか、自己流を見直す段階なのか、裁量の質を高める段階なのか。この見立てができると、同じ「成果が出ない」という状況でも、必要な支援の仕方が見えてきます。

新人には、役割の明確化と安心して質問できる環境が必要
新人が成果を出せないとき、管理職がまず意識したいのは、「できないこと」より「分からないことの多さ」です。新人は知識や経験が足りないだけでなく、何が分からないのか自体が分からないことがあります。そのため、上司から見ると単純に見えることでも、本人はどこでつまずいているのかを言語化できないことがあります。
この段階で必要なのは、叱咤激励ではありません。まずは、役割、期待値、仕事の流れ、相談先を明確にすることです。「今は全部できなくていい」「まずはここまでできれば合格」と伝えるだけでも、新人の不安はかなり減ります。また、質問してよい空気をつくることも重要です。質問のたびに呆れた顔をされたり、「そんなことも分からないのか」と言われたりすると、新人は一気に黙ります。そして、黙ったままズレた方向に頑張ってしまいます。
新人の時期は、成果を求めないという意味ではありません。ただ、成果を出すための前提条件がまだ整っていないことが多いのです。管理職は、その前提を整える役割を持っています。ここで焦って結果だけを求めると、部下は委縮し、管理職も「最近の若手は…」という雑な結論に逃げやすくなります。まずは仕事の土台をつくることが、結果的にもっとも近道です。計画的OJTが新人層で高く実施されているという厚労省調査も、その必要性を示しています。
参考:
厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」の結果について
2〜3年目には、自己流の見直しと成長課題の設定が必要
2〜3年目の部下は、一通りの業務はこなせるようになっていることが多く、上司から見ても「もう基本はできるはず」と思いやすい時期です。ただし、この時期は別の難しさがあります。それは、自己流が固まり始めることです。最低限の仕事は回せるようになったぶん、自分なりのやり方で進める力はつきますが、そのやり方が本当に最適かどうかは別です。
この段階の部下が成果を出せないとき、管理職は「なぜ成長が止まっているのか」を見る必要があります。基礎が足りないのではなく、慣れによって視野が狭くなっていないか。今までの成功体験にしがみついていないか。本人の中で、次に何を伸ばすべきかが見えていないのではないか。こうした問いが重要になります。
2〜3年目に必要なのは、ただ教えることではなく、成長課題を一緒に設定することです。「今のあなたにとって次の課題は何か」「どこを変えれば一段上に行けるか」を対話の中で明らかにすることが大切です。この時期に適切な負荷をかけられると、部下は伸びやすくなります。反対に、何となく仕事を回すだけの状態が続くと、本人も上司も「できるようで伸びない」というもどかしさを抱えやすくなります。目標設定とコーチングの両方の知見は、この段階の育成と相性が良いといえます。
中堅以降には、裁量の与え方と期待値のすり合わせが重要
中堅層の部下が成果を出せないとき、新人のように細かく教えればよいわけではありません。この段階では、知識や手順の不足よりも、優先順位のズレ、惰性、意味づけの弱さ、責任範囲のあいまいさが影響していることが多くなります。
たとえば、仕事は回しているけれど、重要な案件に十分な力をかけられていない。あるいは、任されているのに最終判断を避け続けている。自分の役割を理解しているようで、実は上司の期待とズレている。こうした状態では、細かい指示を増やすほど、かえって受け身になります。
中堅以降の部下には、「何を任せるか」と同じくらい「何を期待するか」を明確にすることが重要です。裁量を与えるなら、判断してほしい範囲を伝える。責任を持ってほしいなら、どの結果に責任を持つのかを共有する。曖昧なまま「もっと自立してほしい」と言っても、部下は動きにくいものです。中堅層は、放っておいても育つ段階ではありません。管理職が関わり方を変えないと、惰性のまま停滞することも十分にあります。上司部下関係の質と成果の関連を示したLMX研究は、この層にも示唆を与えます。
参考:
Martin, R. et al. (2016). Leader-Member Exchange (LMX) and Performance: A Meta-Analytic Review
同じ指導法を全員に当てはめないことが管理職の役割
若手管理職がやりがちなのが、自分がうまくいったやり方を、そのまま全員に当てはめてしまうことです。自分は厳しく言われて伸びたから、部下にもそうする。自分は任せてもらって成長したから、同じように任せる。こうした発想は自然ですが、相手の段階や状況が違えば、同じやり方が機能するとは限りません。
大切なのは、誰に対しても同じ熱量で向き合うことではなく、相手に合わせて関わり方を調整することです。新人には安心と明確さが必要かもしれない。2〜3年目には振り返りと課題設定が必要かもしれない。中堅には裁量と期待値のすり合わせが必要かもしれない。この調整こそが、管理職の腕の見せどころです。
全員に平等に接することと、全員に同じ対応をすることは違います。本当に公平なマネジメントとは、それぞれが成果を出せるように、必要な支援の仕方を変えることです。ここを意識できるようになると、部下を見る目も、管理職としての余裕も少しずつ変わっていきます。コーチング研究でも、画一的な介入ではなく、相手の状態に応じた関わりの重要性が前提になっています。
参考:
Cannon-Bowers, J. A. et al. (2023). Workplace coaching: a meta-analysis and recommendations for advancing the science of coaching
キャリアや私生活の悩みが、成果に影響している場合はどうするか
ここは補足論点です。今回の主軸はあくまで業務上のマネジメント改善ですが、業務外の要因が成果に影響している可能性もゼロではありません。論点を広げすぎない範囲で、押さえておきたい点を確認します。
業務外の悩みが成果に影響する可能性はある
健康面、家庭事情、将来不安、介護、睡眠不足などが仕事に影響することはあります。成果だけを見ていると、背景にある負荷を見逃してしまうことがあります。CDCは、職場のメンタルヘルス支援において、管理職や監督者が大きな役割を持つと説明しています。
参考:
Centers for Disease Control and Prevention, “Providing Support for Worker Mental Health”
ただし、管理職が私生活に踏み込みすぎるのは避ける
一方で、管理職は診断者ではありません。「家庭の問題では」「メンタル不調では」と決めつけるのは危険です。仕事上の困りごとから丁寧に確認する姿勢が大切です。厚生労働省の指針でも、管理監督者の役割は、部下の変化に早く気づき、相談対応や職場環境の改善につなぐことに置かれています。
参考:
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
まずは仕事上の課題を整理し、必要なら支援先につなぐ
最近つまずいている仕事はどこか、業務量は適切か、何に困っているのかを確認し、必要に応じて人事や社内制度などの支援先につなぐ。この順番が現実的です。管理職が一人で抱え込まないことも大切です。厚生労働省のラインケア資料でも、管理監督者は抱え込まず、必要な支援へつなぐ役割を担うとされています。
参考:
厚生労働省「15分でわかるラインによるケア」
部下が成果を出せないとき、管理職がやってはいけないこと
部下の成果を改善したいときほど、管理職は「何をするか」に意識が向きます。ですが実際には、やるべきこと以上に、やってはいけないことを避けるだけで状況がかなり改善することもあります。焦りや不安が強いときほど、逆効果の関わりをしてしまいやすいからです。
若手管理職は、結果を出さなければならないというプレッシャーの中で、つい短期的に効きそうな言動に走りやすくなります。厳しく言う、詰める、見張る、突き放す。その瞬間は何か動いたように見えても、長い目で見ると、部下の主体性や信頼を削ってしまうことが少なくありません。

人格や性格の問題にすり替える
もっとも避けたいのは、成果が出ない理由を人格や性格にすり替えることです。「根性がない」「向いていない」「気が利かない」「詰めが甘い」。こうした言葉は一見すると本質を突いているように見えますが、実際には改善の入口を閉ざしてしまいます。なぜなら、人格の問題にしてしまうと、何を変えればよいかが曖昧になるからです。
部下からしても、「自分はダメな人間だと思われている」と感じやすくなります。そうなると、学ぼうとするより、防衛しようとする気持ちが強くなります。成果を出せない理由は、多くの場合、目標、役割、スキル、関係性、環境などに分けて考えた方が具体的に扱えます。人格批判は強い言葉ですが、強いだけで実務的ではありません。フィードバック研究でも、課題ではなく自己価値の防衛に意識が向くと、成果が下がりやすいことが示されています。
参考:
Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996). The effects of feedback interventions on performance: A historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory
指導のたびに言うことが変わる
部下が成果を出せないとき、上司自身も焦っているため、その時々で言うことがぶれやすくなります。昨日はスピード重視と言っていたのに、今日は丁寧さ重視。先週は自分で考えろと言っていたのに、今週は勝手に判断するなと言う。こうしたブレが続くと、部下は何を基準に動けばよいのか分からなくなります。
管理職にとっては、その時々で正しいことを言っているつもりでも、部下からすると「結局どうすればいいのか分からない」状態になります。そして、この分からなさが、萎縮や様子見につながります。部下が自信を持って動けないとき、その背景には上司の判断軸の不安定さがあることも少なくありません。
もちろん、状況によって重視することが変わる場面はあります。ただ、その場合でも「今回は納期を優先する」「この案件は品質を優先する」と明確に伝える必要があります。一貫性とは、いつも同じことを言うことではなく、なぜ今その判断をするのかを説明できることです。信頼の統合理論でも、一貫性や予測可能性は信頼形成の重要要素として扱われます。
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任せると言いながら、実際は放置してしまう
若手管理職がよく口にする言葉に、「信じて任せました」があります。これは一見すると良い姿勢に見えますが、任せることと放置することは違います。任せたあとに確認の機会もなく、困っていても気づかず、最後にだけ結果を見て評価するのであれば、それは育成ではなく放置に近い状態です。
部下が成果を出せないときほど、任せる範囲と確認ポイントを事前に共有する必要があります。「ここまでは自分で判断していい」「ここは一度見せてほしい」「途中で不安があればすぐ相談していい」。こうした支援設計がないまま任せると、部下は自信のないまま進めるか、判断を避けて止まるかのどちらかになりやすくなります。
管理職としては、手を出しすぎるのもよくないし、任せないと育たないとも感じるでしょう。その通りです。ただ、その間には“支えながら任せる”という選択肢があります。部下が成果を出せていないときほど、ただ自由を与えるだけでは足りません。過去コラムでも、主体性は放置ではなく、目的共有や裁量設計によって育つとお伝えしています。

短期間で結果だけを求め、育成の視点を失う
管理職は結果責任を負いますから、数字に意識が向くのは当然です。しかし、短期の結果だけを強く求めすぎると、部下は「怒られない動き方」を覚えやすくなります。報告を取り繕う、リスクのある挑戦を避ける、上司の機嫌を優先する。こうした行動は、一時的には問題を小さく見せるかもしれませんが、長期的にはチームの力を弱めます。
本来、管理職の役割は、今月の数字をつくることだけではありません。部下が来月、半年後、一年後にもっと安定して成果を出せるようにすることも含まれます。ところが、目先の結果だけに追われると、育成の視点が消え、部下も「この職場では成長より保身が大事だ」と学んでしまいます。
もちろん、育成を理由に結果を問わないのも違います。大切なのは、成果を求めながら、再現できる力も育てることです。短期と長期の両方を見ることが、管理職の難しさであり、腕の見せどころでもあります。厚生労働省調査が示すように、多くの職場で育成課題が続いている以上、短期成果だけでなく学習可能な仕組みづくりが必要です。
参考:
厚生労働省「令和6年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」
部下が成果を出せない状況を改善するために、管理職が持つべき視点
ここまで見てきたように、部下の成果不振は「本人の問題」で終わるテーマではありません。管理職が持つ視点次第で、チームの空気も、部下の動きも大きく変わります。
成果不振は、部下だけでなくマネジメントの課題でもある
成果が出ない部下を見ると、つい相手の課題だけに目が向きます。ですが実際には、目標設定、役割の明確さ、関係性、支援の仕組みなど、マネジメント側に改善余地があることも少なくありません。部下だけを変えようとするより、自分の関わり方を見直した方が前に進むケースは多いものです。
管理職の役割は、詰めることではなく前に進めること
成果が出ないときほど、管理職は「厳しくしなければ」と思いがちです。ただ、本当に求められるのは、部下を追い込むことではなく、前に進める状態を整えることです。目標を明確にし、相談しやすくし、改善の方向を示し、必要に応じて支援につなぐ。その積み重ねが、結果として成果につながります。
小さな改善の積み重ねが、部下の成果を変えていく
部下の成果は、一度の面談や強い言葉で劇的に変わるものではありません。ですが、目標の明確化、事実ベースのフィードバック、継続的な対話、任せ方の調整といった小さな改善は、確実にチームの状態を変えていきます。若手管理職ほど、完璧を目指すより、まずは一つずつ整えていきましょう。
部下が成果を出せないときこそ、管理職の指導法と関わり方を見直そう
部下が成果を出せないとき、管理職として悩むのは自然なことです。ですが、その悩みを「本人の能力不足」で止めてしまうと、改善の余地を見失いやすくなります。実際には、目標設定、役割の明確さ、フィードバックの質、相談しやすさ、任せ方、対話の習慣など、見直せるポイントはたくさんあります。
特に若手管理職は、自分がプレイヤーとしてうまくいったやり方を、そのまま部下に当てはめてしまいやすいものです。だからこそ、部下を変えようとする前に、まずは自分のマネジメントを整える視点を持ってみましょう。部下が成果を出せない状況は、管理職としての失敗ではなく、関わり方を学び直すきっかけでもあります。焦らず、一つずつ整えていけば大丈夫です。

