管理職が陥りやすい「孤独」との付き合い方

管理職になると、部下の相談には乗れても、自分の悩みを相談する相手がいない…と感じる人は少なくありません。守秘義務や人事評価や利害調整といった役割の制約が増えるほど、本音を言える相手は減り、意思決定も孤独になりがちです。

そこで今回の記事では、孤独を「個人の弱さ」ではなく「構造が生むリスク」として捉え、科学的知見に基づく向き合い方と、現場で回すための具体策を整理していきます。

目次

管理職の「孤独」は能力不足ではない

管理職の孤独は、気合や性格で片付けられがちですが、「立場に付随する制約」によって生じていると考えるべきです。つまり孤独を“個人の欠点”ではなく、マネジメント上のリスクとして捉え直すところから始めることが建設的だと考えます。

管理職の孤独の正体は本音で話せる場の不足

孤独は単純に「周囲に人がいない」状態ではなく、必要なときに安心して本音を話せる関係や場が不足している状態として現れます。職場の孤独に関するシステマティックレビュー/メタ分析でも、孤独は職業上の機能やウェルビーイングの低下と関連し、職場環境に改善余地があることが示されています。

管理職の場合、相談内容が人事評価や社内外の機密情報である場合が多く、同僚や部下に話しづらいテーマが増えます。結果として「話せないことが増える=つながりの質が落ちる」方向に傾き、孤独が強化されがちになります。つまり孤独は症状というより、意思決定と関係性の設計が崩れ始めたサインだと捉えるのが実務的です。

出典:Bryan, B. T., Andrews, G., Thompson, K. N., Qualter, P., Matthews, T., & Arseneault, L.(2023)

一般社員の孤独と管理職の孤独は「量」より「質」が違う

「上に行くほど孤独」という言い回しは有名ですが、リーダーの孤独研究自体も概念整理や測定の難しさが指摘されています。重要なのは孤独の強さよりも、孤独が生まれるメカニズムの違いを押さえることです。

一般社員

  • 上司やチームとの日常接点の薄さ、役割の曖昧さ、承認不足など「環境条件」で孤独が増幅しやすい
  • 対策は接点設計

管理職

  • 守秘義務・評価者性・利害調整などにより「対等な場が不足する」タイプの孤独に寄りやすい
  • 対策は同格や第三者の確保

出典:Lam, H., Giessner, S. R., Shemla, M., & Werner, M. D.(2024)

孤独を悪化させる“4つの構造”を見える化する

孤独は「気分」ではなく、特定の条件が揃うことで感じ始めるものです。現場での対策を空回りさせないためには、悪化要因を分解し、どこにどのような対策をすればよいのかを考えるべきです。

構造1:相談できない(守秘・評価・正解圧)

管理職の相談が難しい最大の理由は、話題が守秘義務や人事評価などに直結しやすいことです。「誰に何をどこまで話して良いか」が曖昧なままだと、相談そのものがリスクに感じられ、結果として相談できない状態が常態化します。沈黙は孤独を強め、判断の遅れや迷いも増やします。

ここで重要なのは「相談=弱さ」という誤解を捨てることです。リーダーの孤独を扱うレビューでは、孤独が望ましくない行動や意思決定の阻害と結びつき得る点が論じられています。相談はメンタルの問題だけでなく、意思決定品質の管理でもあります。

構造2:対等な関係が減る(利害・距離・遠慮)

役職が上がるほど、周囲は「否定しにくい」「本音を言いにくい」空気を感じ始めます。管理職側も、部下の評価者としての立場や、部署間調整の利害を背負うため、純粋に対等な関係を築きにくくなります。接する人数は増えても、心理的に近い人は減るのが「質としての孤独」の正体です。

経営層の孤独を扱った研究では、社会的距離や支援不足が職業上の大きな危機になり得ることが語られます。ここから導ける実務の結論は、職場内の関係だけに依存しないこと。利害が薄い同格や社外の場を持つほど、対等な会話が復活し、孤独が「抱えるもの」から「扱えるもの」へ変わっていきます。

出典:Zumaeta, J.(2019)

構造3:切り替えができない(反すう・睡眠前の思考)

孤独が強いと、人は頭の中で会話を繰り返し、最悪の展開を想像して備えようとしがちです。これが反すう(考え続ける癖)です。反すうは「仕事が終わっても終わらない」状態を作り、回復の時間を奪い、結果として翌日の余力が減り、さらに孤独が増える悪循環に入ります。

回復経験(心理的切り離し、リラクゼーション等)を扱うメタ分析では、心理的切り離しが理想の未来や成果と関連することが整理されています。管理職は終業後の切り替え設計を意図的に持たないと反すうが常態化しやすいので、孤独対策は関係づくりだけでなく回復づくりでもあるという視点をもって行動するべきです。

出典:Bennett, A. A., Bakker, A. B., & Field, J. G.(2018)

構造4:要求が高いのに資源が少ない(負荷×支援不足)

管理職は「責任は増えるが、支援や裁量は十分でない」状態に陥りやすいです。特に中間管理職は、上層の方針と現場の現実の板挟みになり、各所からの要求(締切・調整・評価)が厳しくなる一方で、多くの場合で使える資源(人・時間・権限など)は増えない事態が起こりがちです。これこそが孤独を慢性化させる原因の一つになります。

職場のストレスマネジメントの分野では、様々な介入が一定の効果を示す一方、実装・運用の設計が重要であることが示唆されています。負荷をすぐ下げられないなら、支援・裁量・仲間・仕組みなどの資源を増やすことを考えましょう。孤独はメンタルだけの問題ではなく、経営資源配分の問題として扱うべき重大な課題です。

出典:Richardson, K. M., & Rothstein, H. R.(2008)

孤独と上手く付き合う「3つの基本戦略」

孤独はゼロにすることは現実的ではありません。それよりも孤独に飲み込まれないようにする方法を考えて実行するほうが現実的です。そのための基本戦略は3つあります。ポイントは「気持ちの問題」として扱わずに、意思決定と関係の問題として扱うことです。

戦略1|孤独を“弱さ”でなく“シグナル”として扱い、早期に手を打つ

孤独を恥として隠すほど、入手できる情報は減り、判断が遅れます。逆に、孤独を「今の状況は支援が不足している」というシグナルとして扱えば、新たな打ち手が見えてくるはずです。たとえば、相談先が一か所しかない、利害が濃すぎる、切り替える時間がない——こうした条件が特定できます。

職場の孤独は、職業上の機能低下と関連し、職場環境の可変要因と結びつく可能性が示されています。つまり、孤独を感じた時点で「環境・運用・関係のどこが不足しているのか」を確認するのが合理的だということです。感情を否定せず、原因を特定して早く手を入れることが、結果的に管理職の助けとなります。

戦略2|「感情」と「意思決定」を分けて整理し、抱え込みを減らす

管理職の悩みは、感情(不安・苛立ち・罪悪感)と、意思決定(何を決めるか、誰を巻き込むか)が絡み合って重くなりがちです。これを一塊で抱えると、「話すほどでもない」「結論が出てから相談しよう」と先送りになり、孤独が深まります。

分け方はシンプルです。まず感情は「言語化して外に出す」対象として扱い、意思決定は「論点整理して壁打ちする」対象として扱うということです。職場コーチングの領域でも、コーチングが肯定的な組織の成果と結びつくことが示されています。例えば第三者に「整理」を委ねるだけで、孤独は「自己消耗」から「設計上の課題」に変わり、扱いやすくなります。

戦略3|支えを一本化しせず、支援のポートフォリオを組む

管理職が危険なのは、支えが「社内の特定の人」や「家族」など一本に偏ることです。相手の状況や関係性が変わった瞬間に相談先を失い、孤独が一気に深まります。支援は投資と同じで、分散させたほうが安定します。これを支援ポートフォリオと呼びます。

構成例と挙げると以下の通りになります。

  • 同格の壁打ち相手
  • 第三者(コーチ/産業保健/EAP等)
  • 自分の回復習慣
  • チーム内の相談ルール

リーダーの孤独を扱った研究では、概念整理の課題を指摘しつつも、役割が孤独を生む構造を論じています。だからこそ管理職の孤独は、個人が根性で乗り越えるものではなく、支援先を複数用意することが有効と考えられます。

解決策の具体|管理職のメンタルケアを支える「3つの柱」

対策を検討する際には、「個人」「関係」「仕事」の3領域で打ち手を持つのがコツです。どれか一つだけだと継続しません。個人で整え、関係で支え、仕事の設計で再発を防ぐ。この順番で積み上げると、忙しい管理職でも運用できます。

個人の柱|反すうを止め、回復を作る(切り替え設計・セルフケア)

孤独を感じるときほど、脳は「次に備えるために考え続けよう」とします。そこで有効なのが、反すうを区切り止める技術です。職域のマインドフルネスについての分析では、健康への肯定的効果が示されています。要は思考を止めるよりも、思考から距離を取る訓練をするのが良いということです。

短時間で構いません。例えば、終業前に3分だけ「今日の未完了」「明日の一手」「連絡の締め」を書き出し、通知を切り、寝る前は「考える時間」ではなく「回復の時間」にします。すると回復量は増える、孤独への耐性も上がると言われています。孤独対策を「関係づくり」だけにせず、「回復づくり」としても設計すべきでしょう。

出典:Michaelsen, M. M., et al.(2023)

関係の柱|同格ネットワーク/第三者で“安全な場”を持つ

管理職が本音を話せる場所は、自然には生まれないので、意識的に生み出すようにしてください。鍵は「同格」と「第三者」です。同格は現場の温度感を共有でき、第三者は守秘と非利害を担保できます。経営層の孤独を扱った研究では、社会的距離や支援不足が職業上の危機になり得ることが語られています。

この辺りは仕組みにすると継続しやすくなります。たとえば月1回30分の横の壁打ちを固定し、議題は「今月の悩み(感情)」「今月の判断(意思決定)」「次の一手」に限定する。加えて、コーチングを導入するなら評価と切り離すことが必須になります。場が安全になるほど、孤独を「抱える」状態から、「言語化して処理する」状態へ変わっていきます。

出典:Zumaeta, J.(2019)

仕事の柱|会話の質と権限移譲で、チームの関係資本を増やす

管理職の孤独は「部下の孤独」を減らすほど軽くなることがあります。なぜなら、チームの関係資本が増えると、情報がより多く流れ、相談は増え、管理職がひとりで背負う領域が少なくなっていくからです。

具体的には、1on1の目的を「管理」ではなく「支援と前進」に置き、業務の権限移譲を小さく刻みます。任せることで部下が育つだけでなく、管理職自身の資源(時間やエネルギーなど)が増え、孤独感も薄れていきます。

出典:Bryan, B. T., Andrews, G., Thompson, K. N., Qualter, P., Matthews, T., & Arseneault, L.(2023)

うまくいかない理由は「仕組み不足」か「運用のズレ」

ここまでの打ち手は、やれば効果が出ます。しかし現場では、制度にしても形骸化しがちです。原因は大きく2つあって、「仕組みが弱い」か「運用がズレている」かです。この失敗パターンを先に知っておけば、導入の時点で回避することもできるはずです。

「愚痴会になる」「忙しくて続かない」「相談が遅れる」をどう防ぐか

同格の場を作ると、最初に起きやすいのが愚痴大会になってしまうことです。これはある面では完全なる悪ではありませんが、あまりに続くようだと逆効果になってしまいます。防ぐ方法は、会話を

  • 感情(吐き出す)
  • 事実(何が起きた)
  • 判断(何を決める)
  • 次の一手(誰がいつ何を)

に分け、最後の一手まで必ず言語化することです。

もう一つは継続の壁です。忙しい管理職ほど、隔週や月1でもよいので日にちや曜日を固定しないと、すぐに消えてやらなくなってしまいます。時間がないなら、30分でも構いません。議題を絞り、時間も守る。これが孤独対策を続けるコツです。

会社側の壁(制度はあるが使われない/守秘が不安/評価と混線)

EAPや相談窓口があっても利用されない組織は少なくありません。典型的な原因は「本当に守秘されるのかが不安」「誰に伝わるか分からない」「評価に響きそう」といった恐れにあります。管理職ほどこの懸念が強く、制度があっても使われない制度になりがちです。まずは守秘の範囲と共有ルールを明文化し、相談の心理的安全を担保する必要があります。

EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)は、外部の専門機関や社内窓口を通じて、本人が抱える仕事やプライベート上の悩み(メンタルヘルスや人間関係、家族や介護の問題など)を相談することで解決を目指し、健康や生産性の維持・向上を実現させるための福利厚生制度のこと

また、支援施策を人事評価と結び付けると失敗しやすくなります。支援は支援として考え、決して相談は弱点の申告ではないと伝えて、実際にそのように運用し続けることで利用率は上がりやすくなるはずです。

実践アクション|今日からできる“最小単位”の行動プラン

最後に、行動へ落とします。大きな改革より、「小さく始めて続く仕組み」を作ることが重要です。ここでは1週間・1か月・3か月の3段階で、孤独に対する対策を考えていきます。ポイントは「関係」と「回復」と「設計」を同時に少しずつ進めることです。

1週間でやる:終業儀式3分+相談テーマの3分類+同格に壁打ち依頼

まずやることは3つだけです。

  • 終業前3分で「未完了」「明日の一手」「連絡の締め」を書き出す
  • 悩みを「守秘」「評価」「現場課題」の3分類に分け、相談先の当たりを付ける
  • 同格に「15分~30分の壁打ち」を依頼し、日時を確定する

たったこれだけで、孤独は「抱える」ものから「扱える」ものへと変化します。

管理職は忙しいからこそ、短時間の儀式化が効果的です。そして、依頼は早いほど良いです。孤独は放置すると反すうが増えるので、まず区切りを作り、相談ルートを可視化して、同格との場を確保してください。

1か月でやる:月1の同格会+第三者導線の確保+1on1改善の型

次に運用内容を制度にします。月1の同格会の開催を固定化して、議題テンプレを作る。次に第三者の活用を検討します。そして外部のコーチや産業保険医やEAPなど、相談内容が漏れずに秘密が守られる窓口を用意して、連絡手順まで落としこみます。

さらに、部下との1on1を通じて支援的な会話を増やすようにしてください。部下を支援すればするほど、部内で情報が流れ出し、管理職が背負わなければいけない領域が減ります。

3か月でやる:支援ポートフォリオ運用+業務設計(資源増)+振り返り

最後に目指すのは孤独感が再発しにくい状態をつくることです。支援ポートフォリオ(同格・第三者・回復習慣・相談ルールなど)を実際に運用し、偏りや不具合が出てきたら調整してください。同時に、業務設計を見直し、委任できる仕事はどんどん権限移譲を進めます。孤独は、背負う量が減ると自然に薄くなる面があります。

そして月次の振り返りで「孤独のサインが出た瞬間はいつか」「何が細ったか」「次はどう設計するか」などを短くてよいので振り返ってください。その時は、自分を責めるためではなく、設計を改善するという考えで行ってください。一つ一つの改善は小さくても、3か月も続けばまったく別物になるはずです。

まとめ|孤独はゼロにできないから、設計して味方にする

管理職の孤独は、避けるほど深まり、扱うほど軽くなります。ポイントは、孤独を恥や弱点ではなく、改善すべきシグナルとして受け取り、複数の支援導線を用意し、回復と会話と仕事設計を同時に整えることです。

毎日の小さな一手が、半年後の意思決定の質とチームの安定を実現する鍵になります。

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